東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5922号 判決 1977年10月31日
原告 小泉金蔵
右訴訟代理人弁護士 山分栄
同 鈴木康之
右訴訟復代理人弁護士 大浦浩
同 野島潤一
被告 高橋力
右訴訟代理人弁護士 田利治
主文
被告は原告に対し、別紙物件目録(二)ないし(五)の各建物を収去して同目録(一)の土地を明け渡し、かつ、昭和四五年五月二八日から右明渡し済みに至るまで一か月金七五六〇円の割合による金員の支払いをせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四五年四月当時、その所有にかかる別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を被告に対し、木造普通建物所有の目的、賃料一か月三・三平方メートル当り金三五円、合計七五六〇円の約定で賃貸していた。
2 そして、右当時被告は、本件土地上に別紙物件目録(二)の建物(以下「本件(二)の建物」という。他の建物についても同じように表示する。)及び(五)の建物のほか一棟の建物(以下「本件外建物」という。)を建築し所有していた。
3(一) 被告は、昭和四五年五月二〇日頃本件外建物を取り毀わし、その敷地跡に堅固な建物を建築し始めた。
(二) そこで、原告は、昭和四五年五月二二日被告に到達の書面をもって被告に対し、右書面の到達後五日以内に本件土地上に堅固な建物の建築を中止するよう求め、被告がこれに従わないときは本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
(三) しかるに、被告は原告の右要求を無視して建築を続行し、次に述べるように堅固な建物である本件(三)の建物の建築を完了するに至った。
4 本件(三)の建物は、次のような構造の堅固な建物である。
(一) 基礎は、別紙図面(二)の①ないし⑤及び⑫ないし⑯の各柱脚下に独立して、鉄筋コンクリートで作られており、その構造は、別紙図面(一)のように、横一・八〇メートル、縦一・二〇メートル、厚さ外辺で三〇センチメートル中心部で四センチメートルの凸型の中央部に横五〇センチメートル、縦三五センチメートル、高さ五五センチメートルの直方体状の柱部が存している。右基礎は、頭部が約一〇センチメートル地上に出ているが、右以外の部分は地下に存している。そして、右の独立基礎と基礎との間には、約四五センチメートルの厚さの布コンクリートが設置されており、また、独立基礎の下には直径約一〇センチメートル、長さ約一・八二メートルの松丸太が打ち込まれている。
(二) 本件(三)の建物の柱は、別紙図面(二)の①ないし⑤及び⑫ないし⑯のところに十本あり、いずれもH型重量鋼(二五〇ミリメートル×一二五ミリメートル肉厚中央部九ミリメートル、翼部分六ミリメートル、以下鋼材の表示はいずれもミリメートルであるが、この単位は省略する。)で底部に座板を熔接し、ボルト四本で基礎コンクリートに緊結されている。
(三) 床梁(二階の床下)は、H型重量鋼(三〇〇×一五〇、肉厚中央部九、翼部分六・五)五本を用いその各長さは約八・一九メートルであり、柱と熔接されている。但し、右床梁は、両端の柱から一メートルのところに継目があり、その継目部分は各面が厚さ九ミリメートルの鋼板が副えられ、ボルト三〇本で緊結されている。
(四) 二階天井(屋根の裏側の三角形をした梁)部分は、H型重量鋼(二五〇×一二五、肉厚中央部九、翼六)で、形は三角形をしており、柱とは熔接され、三角形の頂点部分は熔接されたうえ鋼板(厚さ九)が副えられ一二本のボルトで固定され、また、下部は、同種の鋼板が使用されている。
(五) 一階部分の小梁(二階床下で柱と柱との間にあるもの)は、C型重量鋼(二〇〇×五〇、肉厚五)が二枚背中合わせに合わされ、柱に熔接された厚さ九ミリメートルの鋼板により作られた三角形の翼にボルト三本で緊結され柱に固定されている。
(六) 一階天井部分の小梁(屋根と柱と接する部分で柱と柱との間にあるもの)は、C型重量鋼(一〇〇×五〇、肉厚三・二)二枚が背中合わせに合わされて用いられ、柱とはこれに熔接された三角形の厚さ九ミリメートル鋼板に二本のボルトで緊結され柱に固定されている。
(七) 天井棟木はC型重量鋼(一〇〇×五〇、肉厚三・二)二枚が背中合わせに合わされ天井部分の梁とは、これに熔接された三角形の鋼板にボルト二本で緊結され梁に固定されている。
(八) 二階床下の梁の間には背中合わせに合わされたC型重量鋼(二〇〇×五〇、肉厚五)二枚が、梁の片端から一・八二メートル、一・八二メートル、〇・九一メートル、一・八二メートル、一・八二メートルの間隔をおいて四本設置されてあり、梁とは熔接された厚さ九ミリメートルの三角形の鋼板にボルト四本で緊結固定されている。
(九) 柱と柱との間、天井の梁の間、二階下の梁の間には、それぞれの柱及び梁に熔接された約一〇平方センチメートルの厚さ九ミリメートルの三角形の鋼板に丸棒型鋼(直径一・八ミリメートル)が十文字にクロスするように筋違いとしてボルト一本で緊結されタンバックルでしめられており、各柱の間では二か所に梁の間では二ないし三か所にそれぞれクロスが出来る筋違いが多用されている。
(一〇) 屋根は、母屋として□型鋼材(一〇〇×五〇)が使われ、その上に波型石綿スレートがボルトにより固定されている。
(一一) 外壁は胴縁として□型鋼(一〇〇×五〇)が用いられ、その外側に波型石綿スレートが貼られている。
以上のように、本件(三)の建物は、柱を中心としてすべてこれに熔接されたと同様の状態で梁に緊結されており、基礎は独立基礎が用いられており、建物全体として一体性を有する構造となっている。また、ボルトは、ハイテンションボルトが用いられているが、このボルトは締りがよく、リベット以上の強度がある。
5 本件賃貸借の解除後、被告は本件土地上に本件(四)の建物(別紙物件目録(四)の建物)を建築した。
6 よって、原告は被告に対し、本件土地の所有権に基づき、本件(二)ないし(五)の各建物の収去及び本件土地の明渡し、並びに本件賃貸借契約解除の日の翌日である昭和四八年五月二八日から右明渡し済みに至るまで一か月七五六〇円の割合による賃料相当の損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2 請求原因3の事実のうち、本件(三)の建物が堅固な建物であることは否認するが、その余の事実は認める。
3 請求原因4の事実のうち、本件(三)の建物が堅固な建物に当たるとの点は否認する。本件(三)の建物は、鉄骨とはいえ、屋根は単なるスレート葺であり、周囲も波型鉄板によって囲ったものにすぎず、建築費も昭和四五年二月当時七二坪で合計四〇〇万円、三・三平方メートル当り五万五五五五円という安価なものである。鉄骨も単にボルトとナットで連結したもので壁塗りもしないのであるから、解体は通常の家より容易であり、地震の物理的外力、あるいは火災等に対しては抵抗力が強いと考えられるとしても、化学的外力に対しては決して強いものではなく、本件(三)の建物は到底堅固な建物とはいえない。
4 請求原因5の事実は認める。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1及び2の各事実並びに同3の事実のうち、本件(三)の建物が堅固な建物であるとの点を除く、その余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、本件(三)の建物が借地法二条にいう堅固な建物に当るかどうかについて判断することとする。
1 《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一) 本件(三)の建物は、別紙図面(二)(以下「本件図面(二)」という。)記載のとおり、間口一四・五六メートル、奥行八・一九メートル、床面積一、二階とも二五九平方メートルの鉄骨スレート葺・波型鉄板張りの二階建倉庫兼工場である。
(二) 本件図面(二)の①ないし⑤、⑫ないし⑯の各点の垂直下の地点には、それぞれ直径九センチメートル、長さ一〇八センチメートルの松丸太が打ち込まれ、その上にほぼ別紙図面(一)のような鉄筋コンクリート造りの独立基礎が設置され、その頭部が約一〇センチメートル地上に出ているが、その余の部分は地中に埋められている。右独立基礎相互の間には、布コンクリートが設置されており、一階床は厚さ約七・五センチメートルのコンクリートが打たれている。
(三) 柱は、H形鋼(二〇〇ミリメートル×一〇〇ミリメートル、厚さ七ミリメートル、以下鋼材の単位は、ミリメートルであるが、省略する。)が用いられ、各独立基礎の上に一〇本立てられており、その各底部に座板が熔接されており、これが各独立基礎の頭部に四本のボルトで緊結されている。
本件図面(二)の⑦、⑩、⑱及びの各点の個所にC形鋼(一〇〇×五〇、厚さ一)二本を背中合わせにした間柱が立てられている。
(四) 二階床下の本件図面(二)の①と⑯、②と⑮、③と⑭、④と⑬、⑤と⑫の各二点を結ぶようにH形鋼(二五〇×一〇〇、厚さ一〇)の梁五本が設置され、柱と右の各点は熔接によって接合されている。
右各梁の長さは八・一九メートルであるが、両端の柱から約一メートルのところに継目があり、その継目部分は鋼板が副えられ、ボルト三〇本で緊結されている。
また、右図面①と⑤、と⑥、⑳と⑧、⑲と⑨、⑰と⑪、⑯と⑫の各二点を結ぶ線上に軽ミゾ形鋼(七五×二〇〇、厚さ三)二本を背中合わせにした長さ約三・六四メートルの桁が、柱と柱との間梁と柱及び梁との間に、これらに熔接された三角形の鋼板とボルトとで緊結されている。
二階の床は板である。
(五) 二階の小屋梁は、いわゆる合掌梁で、柱の位置五か所に設けられ、H形鋼(二〇〇×一〇〇、厚さ七)が使用されている。各梁は、C形鋼(一〇〇×五〇、厚さ一)の棟とボルトで緊結されているが、柱とは熔接によって接合されている。
軒桁は、C形鋼(五〇×一〇〇、厚さ一)二本を向い合わせにしたものが用いられている。
(六) 柱及び間柱の外側にC形鋼(一〇〇×五〇、厚さ一)の胴縁が、一、二階をほぼ八ないし九等分する位置に付けられている。右胴縁は、柱とは、これに熔接された鋼板とボルトで緊結されているが、窓(北側一階二個、二階四個、南側一、二階とも各四個、東側一、二階とも各二個設けられている。)の近くは、胴縁と垂直に入れられたC形鋼(一〇〇×五〇、厚さ一)とは熔接によって接合されている。
(七) 北側及び南側の側壁内側に一、二階とも各二か所直径一・一センチメートルの鉄棒の筋違いが、また、一、二階の各天井にも鉄骨の一桝おき位に右と同一の鉄棒の筋違いが設けられている。
(八) 屋根は、切妻屋根でスレートが葺かれているが、右スレートは、胴縁と釣針状の釘で固定されている。
(九) 外壁は、波形鉄板で、これは胴縁に釣針状の釘を引っかけて止め、この釘を外側から捩子で締め付けてある。
内壁は、一階のみベニヤ板が張られているが、二階は何も施されていない。
2 ところで、建物が借地法二条にいう堅固な建物に当るかどうかは、建物の耐久性を中心として、耐震性、耐火性及び解体の難易度をも考慮して決すべきところ、前記認定の本件(三)の建物の構造、使用材料等の諸事実及び鑑定人大島巌の鑑定の結果を総合すると、本件(三)の建物は、耐火性の点においては木造建物と同程度であり、また、解体の難易度の点においては木造建物を廃材にしてする解体の場合と異らないが、耐震性の点においては木造建物の数倍の強度を有し、また、耐久性の点においては、本件(三)の建物に適時に防錆ペイントを塗るという比較的簡単な保存工事をすることによって、七〇年から八〇年位の寿命を保持することが可能であり、木造建物と比してかなり長期の存続期間を有するものと認められる。
以上の点を総合すると、本件(三)の建物は、借地法二条にいう堅固な建物に当ると認められる。
そうすると、被告に本件土地の用法違反があったことを理由とする原告の本件賃貸借契約解除の意思表示は、有効というべきである。
三 請求原因5の事実は、当事者間に争いがない。
四 以上認定したところによれば、原告の本訴請求はすべて正当として認容すべきであり、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、仮執行宣言は相当でないと認められるからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 柴田保幸)
<以下省略>